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 代表のホーム戦。事前合宿は静岡だった。南葛からも程近い総合スポーツ施設で敷地もかなり広い。俺は昨日日本に着いたばかりで、羽田からその足で早速やってきていた。
 顔合わせも兼ねた練習の開始は今日からで、とはいえいつもの顔ぶれにあまり変化はない。昼メシを食って空いたグラウンドの脇で転がっていると、眠気がやってきた。昨日の今日で時差ボケが十分に解消されていないこともあって。
 ハンブルクではどんどん日が短くなっている季節だ。冷え込みも特に朝晩は厳しい。それに比べれば静岡は別世界だ。晴天の日も多いし、何より暖かい。
 そういうわけで午後の練習の直前とはいえ、俺は目を閉じて手足を伸ばしながら生まれ故郷の日差しを存分に楽しんでいた。
「あれれ~?」
 とそこへ馴染みの声が向こうから近づいてきた。
「あんなとこに若林さんがいるぞー」
「ほんとだ。昼寝してら」
「さすがの余裕だなあ」
 旧修哲組か。相変わらずのつるみ具合だ。なんだか目を開けづらい。
「起こすか? 練習開始までも少しあるけど」
「くく…、起こすならキスだよね。お姫様を目覚めさせるのって」
 笑っているのは来生だな。あとでぶんなぐってやる。
 しかし笑い声は重なった。
「それだそれ。誰かお姫様にキスしろよ。おまえ行く?」
「おまえやれよ、そらそら」
 高杉まで加わっている。こいつらおもちゃにしやがって!
「おーい、何してんだよぉ!」
 ひときわ甲高い声がやってきた。怒鳴ろうと息を吸ったところだったからむせそうになる。現南葛高ではチームメイトになる石崎だ。
「今、若林さんを起こすとこ。キスでね」
「ナンダッテェ?」
 すっとんきょうな声に俺は起こしかけた体から力が抜ける。
「なぁにやってんだよ。しょうがねえなあ、オレに任せろ」
 待て待て待てー。何が嬉しくて石崎なんかにキスされなきゃならないんだー。
 叫びかけたところへ気配が近づいたと思ったら、起こそうとした体をいきなり思いっきり押し倒された。生温かい息が俺にかぶさって…。
「うわー! や、やめろー」
 すごい勢いで舐め回された。顔はもちろん襟元もびしょびしょになる。
「ジョン?」
 まだ俺に手を掛けて飛びつくのをやめずに、口元目掛けて突撃してきたのは愛犬のジョンだった。その肩越しにやっとのことで見えるのはもちろんゲラゲラ笑っている石崎だ。
「いやあ、感動の再会だな、若林。かーちゃんに車で連れて来てもらったんだぜ。おまえ実家に帰らないって言ってたから」
 もうすっかり老犬になって口周りにも白い毛が増えたジョンだが、その力はまだまだ強い。へたり込んだままの俺をいいように翻弄している。
「ジョン落ち着け」
 確かに親や兄弟には会わないままでいいとは思ったがおまえは別だ、ジョン。
 その頭に手を置いて、まだ周りを囲んでへらへらしていた修哲組を、俺は恨みを込めて睨みつけたのだった。



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