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 目を開くと何かベッドに違和感があって日向は一気に覚醒した。
 ベッドではなく上掛けの中?
「おい!」 
 声が上擦る。
 覗き込んだその中には、あろうことかいるはずのない人間が幸せそうに眠っていたのだから。
「こら、放さねえか! 足がしびれちまう!」
 ベッドのかなり足元のほうで、翼はもぞもぞとさらに丸まった。日向の右足を両腕に抱え込んだまま。
「放せ! おまえは猫か!」
 振り払おうと足先を闇雲に動かすと、さすがの翼もようやく目を覚ましたらしかった。
 ぼんやりとしながら伸びをする。
「んー?」
 そうしてぱちっと開いた目が合う。しっかりと。
「あれぇ、日向くんだ。どうして俺のベッドにいるの?」
 と言いかけてはっとする。上掛けを跳ね上げて胸元に目をやり、じたばたとベッドの上に身を起こそうとした。
「暴れるな。何もしてねえから。それにここは俺の部屋だぞ」
「え? …え、え?」
 着衣の乱れは当然ない。翼は顔を上げた。混乱したままだ。
「俺、なかなか寝付けなくて。…明るくなってきたから寝るの諦めてちょっとそこらを走ろうかなって…」
「何やってんだ。夜中に。ああ、時差ボケか」
 同じヨーロッパから来た身なのは日向も同じなのだが、翼はチームの遠征帰りで南米を経由したせいで短期間に地球を半周以上したことになる。
「だとしてもだな」
「ゴメン、俺やっと眠くなったから二度寝しとこうって部屋に戻った…つもりだったんだ」
 なんかベッドがすごくあったかくって…と口の中でもごもご言いながら翼は枕元まで膝でにじり寄った。
「こら」
 そのまま伸び上がって首筋にしがみついた翼を、日向はうるさそうに押しのけようとした。
 …ようとしたが翼は腕を巻きつけて離さない。
「何もしてないって、そうなの?」
「今日はな」
 サイドベッド埋め込みの時計に目をやり、日向は息を吐いた。
「ほらもう時間だぞ。悪いことはしてる余裕はねえ。行くぞ」
 着替えて朝シャワー。階下の朝食に間に合わせるために。
「おまえの服はおまえの部屋なんだろ。急げって」
「これくらいは、大丈夫」
 温もりを堪能してからようやく翼は自室のシャワーに駆け込んだ。



「見たか?」
「あ、ああ。翼、日向の部屋から出てきたよな?」
 当然のごとく、目撃者はあった。
「下着、脱げかけ…だったような…」
「ひゅ…日向の首筋に…キスマークみたいなのなかったか?」
 ひそひそと噂は回る。
「見間違いじゃないのかなあ――たぶん」
 といった穏便な意見はスルーされた。
「前科は山のようにあるしな」
「うんうん、放っておいたら限界ないから、2人とも」
「遠慮なんて言葉は最初からないし。岬ならともかく」
「なんだって!」
 いつの間にいたのか、当人がどきっぱりと否定したのでチームメイトはびくびくした。
「今日の練習が流血沙汰にならないといいが」
「楽しみだねえ」
 何やら過激な会話も。
 朝早くから意欲満々なユース代表チーム一同であった。
 今回はほぼ未遂だっただけで、無自覚に好き放題しているのはいつも通りの敵なしカップルなだけに。



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