東邦の購買部は中等部、高等部、大学部それぞれにある。
寮暮らしで買い物も構内に限られるから、購買部の品揃えは普通の学校とはかなり違う。
「乾電池と蚊避けスプレーが欲しい? あると思うぞ」
交流戦でやってきた武蔵の面々を案内しながら高島が言った。
「へー、まるでコンビニだな」
「へへっ」
実はその通りで、購買部は外部資本ってことになっており大手3社のコンビニチェーンが購買部をそれぞれ経営していたりするのだ。
「たとえばねえ、中等部は○ブンイレブンなんだ。俺は○らあげクンが好きだから、来年から高等部の○ーソンになるのを楽しみにしてたりするんだけど」
反町が得意そうに言う。聞いてないって。
ただしどの店を使うかは自由で、客は好きな店を選んでいい。自分の校舎に近いか遠いかの差だけだ。
見覚えのある配色の外装に昔ながらの木の看板がかかり、「中等部購買部」と墨書されている。
「いや、コンビニにしちゃ弁当が少なくないか? コンビニってよりドラッグストアみたいだ」
武蔵の3年生たちは興味津々だった。(キャプテンは不在だ)
「弁当がほとんどないのは売れないからだよ。学食のほうがうまいからな」
学食というか要は寮のお食事処だ。運動部が大勢を占める東邦では朝早くから夜まで学食がずっとオープンだ。
「そのかわり部屋で食うカップ麺とかは多いぞ。テスト期間なんかは搬入も増やすって」
高島は棚の○そばバゴォーンを示して笑った。けっこう遠くから取り寄せているらしい。地方からの入学も当たり前に多い東邦ならではだ。
「服もあるんだぜ」
「まあ最低限だけどな。私服はたいてい下に買いに行くから」
毎週末、学校からふもとのH中央駅行きの循環バスが出る。生徒たちは気晴らしも兼ねてたまの買い物に利用しているのだ。都心まで出かける猛者もいるようだが日帰りは厳しい。
そもそも私服が必要かさえも怪しいのである。学校では制服かスポーツウェアで事足りるのだから。
「あれっ」
高島がぱっと顔を上げた。
「川辺のカノジョだ」
「おお」
反町も同じくそちらを見る。
「え? あの女の子たちのこと?」
「川辺ってさ、バレー部の子と付き合ってんの。2年の。付き合ってるの内緒なんだ」
「そうそう。だから俺たちも内緒にしてやってんのさ」
不思議そうにする武蔵の部員たちに反町がにやっとした。
「あの一番端のポニーテイルの子。サブちゃんていうの。あだ名だけど」
ジャージの女の子の一団はこっちに気づくと笑って手を振った。どう見てもこちらのサッカー部よりデカくて手足が長い。
「木曜日、対抗戦なんだー。応援に来てって言っといて。4時から第3体育館だから」
「おっけー」
反町も笑顔で手を振る。
「内緒だと思ってるのは川辺だけなんだ」
高島は武蔵に説明して苦笑しながら購買部をあとにした。
青春は複雑怪奇だ。中3の晩夏のことだった。
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