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「ひゅ、日向さん!」
 ピッチから通路に下りたところで背後からタケシの悲鳴のような声がした。
「右足が…!」
「あ?」
 立ち止まって背後に視線を向けると、右足のふくらはぎより下のあたりのストッキングが鮮血に染まっていた。みるみるそれが広がって右足下部全体に赤くしたたっている。
「すぐ治療を!」
「ああ、まあな」
 代表の白いストッキングが裂けて傷口が見えていた。前半終了直前のゴール前の混戦でレイトタックルを受けていたのか。
「気づかなかったんですか! 痛かったでしょ」
 いち早く医療スタッフを引っぱってきて反町も叫ぶ。
「覚えがないな。プレイ中だったしな」
「ん、もう!」
 後から来た来生らがうわあと跳び退くくらいだった。
「あんたのアドレナリンは仕事しすぎです」
 いつ追いついたのか若島津が眉を寄せて立っていた。
「早く止血してもらいなさい。ピッチに出られませんよ。それとも代えてもらいます?」
「へっ、バカ言ってんじゃねえ」
 メディカルルームへと肩を貸そうとしたスタッフを置き去りにして、日向はのしのしと姿を消した。ビブス姿の反町は肩を落として大げさにため息をつく。
「今さらだけどさ、あれにどう口出しできるっての。虎々しいったら」
 口の中でつぶやいてロッカールームの自分の席にもたれ込んだのだった。




「…ふう」
 重いため息が出た。そばに人影が立つ。
「ご苦労さま」
 前半は出番のなかった三杉だった。
「いい狙いだったね。味方さえ欺きそうになってた。…一人を除いて」
 おとりのスペースを作って翼が一気にゴール前の位置に切り込むはずだった。そのために引きつける動きとして右サイドに飛び出した岬だったのだが。
「ほんとに小次郎ってば!」
 つい声が鋭くなる。声量は押さえたものの。三杉が一瞬だけ目を細める。
「まあいいじゃないか。あれで先制につながったんだ」
「翼くんのゴールになるはずだったのに」
「誰が得点してもうちの点なのは同じだが」
 ちらりと背後に視線を投げる。
「空気を読まない…というか読む気がないというか」
 隠してはいるが悔しそうな響きはある。手当てを終えた日向が姿を見せたところだった。
 岬はそちらへは顔を向けずに遂にがっくりと肩を落とした。
「ほんとに…虎々しいんだから」
 言うだけ無駄なことはわかっていただけに。




「ねえ、虎って虹彩が変えられるんだよね」
「らしいな。よく知らねえが」
 別に虎を名乗っていても虎の専門家ではない。当然ながら。
「虹彩の形はもちろん、色も変えられるんだって」
「妙なことに詳しいんだな」
 囁きながらの会話は単に距離が近いせいだった。周囲には物音すらなく、誰に聞かれる心配もないのだが。勝利の余韻だけが漂う時間だった。
「当人より詳しいかも」
 クスクス笑いが耳元をくすぐる。
「あの縞模様ってさ、皮膚ごとシマシマらしいよ」
「……俺はニンゲンだ」
「ほんとかなー」
 わざとからかってみせる。
「試してみようかな」
 体温を全身に実感しながら、冗談めかした抱擁がそこで止まった。しがみついた腕にわずかな緊張がある。
 声が揺れたのは小さな怒りのせいだった。
「虎は虎がしみついてる。それは確かだけど」
 縞模様のように。
「自分を大事にして。ケガさせられるなんて…やめよう、なるべく」
 少しだけ、沈黙があった。そして苦笑。
「ああ、もう痛みはないから問題ねえよ。なんならふさがってきてる」
「もう! そんなバケモンみたいなこと!」
「おまえが言うか」
 外は雨になったようだった。試合が終わった以上影響はない。
 ただ虎々しい時間がここに。


                                                                                          end
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