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傷がついているのかはわからない。
 皮を剥いて初めて、触ってついた痕が見つかったりする。
 残念なような、痛々しいような。
 それとも頼もしい?








 久しぶりに会えた翼は元気に笑っていた。
「飲もうぜ」と誘ったがそれは断り、とりあえず繁華街のバルに入った。
 懐かしい面々の近況や思い出話に盛り上がった。
「――あ、すみません」
 テーブルをすり抜けかけた客の男と肱がぶつかって、翼は現地の言葉で詫びたが、男は露骨な舌打ちをして黙って行ってしまった。
「翼…?」
 問うと翼は首を振る。
「たまに混じってるんだ、アッチの人」
「えっ?」
 翼はちょっと複雑な笑顔になった。
「政府寄りっていうか、独立反対派のちょっと過激っぽい人たち」
「ああ――」
「で、互いに反発する代わりに、そのどちらにも属さないグループを敵視したいって人ね」
 俺はちょっと息をのんだ。
「それってとばっちりじゃねーか、完全に」
「そうとも言えるけど、そうでもない」
 翼は背を伸ばした。俺のほうが周囲を見渡す。
「このエリアはわりと賛成派が多い地区で、店を選べばだいたいは住み分けができるけど完全でもないから」
 確かに店内のざわめきの中にちらちらとこちらに冷たい視線を送る者が混じっている。翼は「独立」という単語を避けた。日本語の会話なのだから、聞かれる心配はないのだが。
「もともと不法移民が多いからね。出て行きたくても出て行けない層。経済的に困窮してるから違法取引とか麻薬犯罪とか、余計に増える。そうなるとアジア人が敵視の対象になっちゃうんだ」
「なら余計にとばっちりだろうが! 移民のアジア人ってほとんどが中国だろう」
「――わかりやすいからね」
 翼の言葉には自嘲も含まれていたようだ。俺もそれは地元で多かれ少なかれ経験しているから何も言えなかった。
「住民投票とかどうなってる?」
「昔は独立一辺倒だったけど、最近は半々に近づいてるよ。ほら、経済が下向きだから」
「主義主張以前に経済か。どこも厳しいな」
 食べないと生きていけない。そういうことだ。
「いいこと教えてあげるよ。ファン層はそういう人たちメインなんだ」
「生きてくのが厳しいほどサッカーが好き、って?」
「そう」
 翼は笑った。
「だから俺は好かれても敵視されても気にならないよ。サッカーをするだけ」
「なるほど」
 そういう割り切り方もアリか。翼イチオシのアロスネグロを食べ終えて、口をよくぬぐい立ち上がる。
 店内でファンに見つかり、翼は愛想よくサインなどしていた。俺は訊かずにはいられなかった。
「翼、サッカーは好きか?」
 店の階段の前で翼は立ち止まり振り返った。俺の言葉にびっくりして、それから笑顔が弾けた。
「うんっ、大好き!」
 まあ今さらだがな。



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