「アホンダラー!」
早田の叫びだ。
「すぐ戻らんかい。いてまうぞ!」
「ああ、ゴメンゴメン」
などとやっている目の前の守備陣を見ながらつぶやく。
「早田は口が悪いな」
「大阪弁だから割増で迫力あるしな」
「まああいつは通常運転だろ」
「けど人によっては試合中だと人が変わることってないか?」
「ああ、あるある…って、あるか?」
控え選手たちは暇だった。
「たとえば翼がすごい後ろ向きだったり」
(ダメだ、やっぱり俺なんかじゃダメなんだ。全部俺のせいなんだ)
ないこともないような。南葛の証言だからそうなんだろう。
「松山がやたら無責任だったり」
(ああ、そっちから来たかー、ならしゃあねえわ。今さら行ってもな。いい、いい。ほっぽっとけ)
もっと粘れ。
「森崎がすっごく俺様だったり」
(フッ、この程度で俺を抜けると思ったか。もっと気合い入れて打ってこい!)
それだったらいいのにね。若林が憑依したか。
「三杉が完全に脳筋だったり」
(トップはもっとこう根性でガーッと行くんだ。中盤もチョロチョローっと行ってからいい具合にシュッと!)
いやそれは困る。
「若島津が饒舌だったり」
(いやあ、今のは正面突破じゃなく左に開いたほうがよかったな。そういえば1年前、俺が完全に抑えた試合があって、あの時使った技は…)
うざい。スネオか。
「次籐が繊細だったり」
(それだと威力が足りんタイ。飛ぶ角度は68度がよかと。…ああ、あったらか、まだ60度タイ)
それは繊細なのか?
「日向がフェミニンだったり」
(じいや、こんな所に虫がいましてよ。これではシュートが打てませんわ。かわいそうですもの)
激しく違う。じいやって誰だ?
と、背後に立つ人影。彼らが気づくと同時に大声が炸裂する。
「こらーっ、おまえら暇なら次の紅白戦までランニングでもしてろ!」
「ひっ」
もちろん、それは腕まくりしたフェミニンなストライカーだった。
「まったく、ろくでもねえヤツらだ。まさに小人閑居為不善、だな」
「日向、きみ…」
同じく給水タイムでミニゲームを中断していた三杉が振り返る。
「意外と引き出しを持ってるんだね」
「おう、当然だ。勝つためなら孫子の兵法でも何でもやるさ」
のしのしと立ち去る。
フェミニンは困るが孫子もどうなんだ?と思いつつ、三杉はそれを追ってピッチに向かった。
END
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