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「しかしあいつに弱点なんてあるのか? おい、翼」
「えー、そんなこと言われても」
 話を振られてなぜかもじもじする翼だった。
「サッカーはあの通りだし」
「全ポジションこなすしな。GKでさえ」
 日向のくせによく見ている。
「ま、そいつはおまえらがしょっちゅう行方をくらますからだがな」
「ご、ごめん」
 日向の言葉に小さな声で謝罪する森崎だが誰も聞いていなさそうだ。
「しょっちゅうたって数年に1回くらいですけどね。マメなあんたと違って」
 後半、心の声がダダ漏れだ、若島津。GKにはGKの事情があるとはいえ。
「サッカー以外でも弱点なさそうやもんなあ」
「好き嫌いとか言ってんの聞いたことないぜ?」
 同じ家に住んでいる松山が早田にうなづいた。すぐ食べ物に頭がいくのはしかたないか。
「酒も強いってほどじゃないがまあ平均的かな」
 おい、未成年。松山の言葉は聞かなかったことにしよう。
「頭いいのは確かだからな。医大も余裕だろ」
「ああ、勉強ができる、にとどまらないからな。英語とか実用」
「いろいろ資格とってるらしいぞ。年齢の範囲で」
 修哲トリオが互いに確認をとっている。
「普通車はもちろん大型車とか普通二種とか持ってそうだよな」
「ああ、それムリ。年齢がまだだし。準備はしてるだろうけど」
 松山の証言で青ざめる者数名。準備って。
「無駄にお行儀完璧だし」
「ああ、食事マナーとかビジネスマナーとか」
 それは代表で行動している時に特に発揮される類いのものだ。
「心臓は完治してるし健康面の問題はないな」
「あれだ、嫁さんに弱いとか」
「ないな。ああ見えて女に強気だ」
 嫁さん呼ばわりはやめてあげて。それなりに対抗できる人物だが。
「セクハラ発言したのに普通に流すし」
「若林くん…」
 翼が睨んだので若林が何を言ったのかは謎となった。
「虫が怖いとか犬が怖いとか、ないか」
「オバケが…うーん、なさそう」
 佐野と新田は発想がカワイイが、スリッパで黒いアイツを瞬殺するのを目撃したことのある次籐は黙っていた。
「カナヅチとか。音痴とか。あ、方向音痴も」
「全然」
「下の名前で呼ぶと照れる、とかね」
 どんどんセコイ話になっていく。全部松山が証言して消えたが。
「それもない。俺、家では名前で呼んでるし。互いに」
「ひえ~」
 想像しただけで撃沈した者も。他人が照れてどうする。
「これはもう恐竜かマンモスかUFOでも持って来るしかないな」
「――ずいぶんだな」
「!」
 談話室の戸口に話題の人物が立っていた。無表情に。
「腹を立てればいいのか、照れればいいのか、どっちなんだ?」
「いや、おまえの弱点ってないのか、って話だよ」
 松山は特にあわてない。さすがだ。
「弱点? そんなの当然あるよ」
「へえ?」
 しかしそう答えてから話題の三杉はちょっと考えた。そうして部屋を見渡し、中の一人に視線をとめる。
「ただ、限定で、一人なんだけどね」
 ただ一人話に加わらず、それどころか聞こえてもいないという無関心さで、翼の隣でソファーにもたれて雑誌を広げていた人物。
 チームメイトたちはここではっとしたようにめいめい口をつぐんで目が泳ぐ。自然と、聞こえるのは三杉の声だけになった。
「弱点と言うか、言葉だけで心臓が止まるような」
「うわあ、そうなんだー」
 例外があった。熱心に食いつく。
「ね、ね、試しに言ってみて」
 聞こえないふりをしている隣の人物に全力で振る。
「ほら、岬くん!」
「ボクに殺人者になれって?」
 翼相手だからため息一つですんだのだろう。それだけ言って岬は部屋を出て行ってしまった。
 他人のいるところでは殺せない。
 そういうことですね?



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