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「じゃ戻るか」
「はあ」
 駅前のショッピングセンターを出て、学校へ向かう電車駅を目指す。乗り換え2回で学校の最寄り駅だが、そこからさらにバスだから、逆算すれば頃合いだった。
「あ?」
 日向は足を止めた。手にしていたリボン付きの包みを大事にバッグにしまいながら。
「なんだ坊主」
 歩道の脇で泣いていた幼児の前でしゃがむ。
「どうした。転んだのか」
「いっ、あう…あ――」
 泣きじゃくりながらなので言葉になっていない。
「母親がいなくなったとか言ってますね」
「よくわかったな、おまえ」
「要は迷子ってことですね」
 子供は日向の手に任せておいて回れ右し、ショッピングセンターのインフォメーションに向かう。
「さ、もう泣くな」
 案外面倒見のいいところを見せてハナをかんでやる日向だった。通りがかった中年の主婦が幼児を膝に乗せているその姿に笑顔を見せる。
「あら、かわいいパパとママね」
「!」
 若島津が顔色を変えた。
「だっ誰が! これは迷子だ!」
「うふふ、冗談よ。彼女さんでしょ。偉いわね」
 呼び出し放送に若いお母さんが赤ちゃんを抱いて駆け込んできたのを見やって、おばさんは笑った。
「こんなガタイの女がいるかっ!」
「おいおい」
 日向の口許は笑いをこらえて歪んでいる。おばさんはもう笑いながら立ち去っていた。幼児は母親と無事再会し、彼らは何度も礼を言われた。
「そんなにムキになるな」
「だけどねっ!」
 背後でシャッター音がした。
「ん~、微笑ましいねえ。若いパパとママ。記念写真とっとこうっと」
「そりまち…」
 実家近くの大型店を日向の買い物のために案内した反町が、いいタイミングでまんまと現われる。
 揃って妹持ちだがバースデープレゼントを喜ぶお兄ちゃんっ子の妹を持つのは日向だけだった。学校から1時間以上かけてやってきた甲斐があったのは日向本人と反町のみ。
「寮のみんなにいい土産ができたなあ」
「俺はいったい何しにここまで来たんだ…」
 普段ならぶっとばしているところだがその気力を完全に失った若島津は、放心状態で奥多摩へと運ばれて行ったのだった。



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